バリューチェーン(Value Chain)

バリューチェーンとは、マイケル・E・ポーターが著書『Competitive Advantage: Creating and Sustaining Superior Performance競争優位の戦略)』の中で用いた言葉であり、企業の競争優位がどこにあるのかを明らかにするために企業の内部環境を分析するフレームワークです。

 

 

企業が競争優位を構築するには、事業が置かれている環境や構造を正確に把握することが必要です。そのためには、外部分析と同時に内部分析が求められます。外部分析を実施するには、Forcesアドバンテージマトリックスなどが、有名ですが、ここでは、内部分析をするために有効なフレームワークであるバリューチェーンについて説明をします。

そもそも内部分析においては、競合と比較した自社の強み・弱みを把握することが非常に重要です。この競合との分析がしっかりとできていれば、競合に勝つためには自社のどの部分を強化しなくてはいけないのかという知見を得ることもできますし、現在の競争優位を将来に渡って確固たるものにするために何をしなければならないのか、といった示唆をえることもできます。自社の強みを最大限活用するためにはどのような競争に持ち込めば良いのか、といった発想も可能になります。

バリューチェーンでは、事業活動をそれぞれの機能ごとに分解し、どの部分(機能)で付加価値が生み出されているのか、どの部分に強み・弱みがあるのかを把握し、事業戦略の有効性や改善の方向を探ります。事業の活動全体(付加価値全体)をどのように分類することができるかを示しているのが下図です。

まず、上流から下流まで事業の流れとなる「主活動」とその主活動をサポートする「支援活動」に分類します。それぞれの欄の大きさは、個別活動ごとのコストを示し、それにマージンを加算します。ポーターは企業の主活動として「モノの流れ」に注目し、原材料、部品などの「購買物流」、「製造・オペレーション」、「出荷物流」、「マーケティング・販売」、「サービス」などに分類しました。「支援活動」は「企業インフラ」、「人材資源管理」、「技術開発」、「調達活動」からそれぞれ下図のように構成されます。



購買した原材料等に対して、各プロセスにて価値を付加していくことが企業の主活動であるというコンセプトに基づいたものであり、(売上)-(主活動および支援活動のコスト)=利益(マージン)であるため、図示した場合にはバリューチェーンの最下流に「マージン」と記載されます。

ここで重要なのは各業務を厳密に分類することではなく、企業の多彩な活動をもれなく把握し、これらの役割、コスト、全体への貢献度を明らかにすることです。それにより、企業が低コストで競争するとき、あるいは差別化で競争するときなど、自社が目指す事業戦略の具体的な打ち手を検討する際に有益です。

たとえば、コスト競争を志向するならば、顧客にとって最低限必要な機能を保ちつつ、バリューチェーンのどの部分でコスト削減が可能か、模索することが可能になります。

また、高付加価値を志向するのであれば、どの付加価値活動でいかなる価値を提供するかが問われます。

このように、企業活動をいったん個別の活動に分解し、それぞれの付加価値とコストを把握して、各活動が最終的な価値にどのように貢献しているのか、その関係と構造を明らかにすることで、自社の競争優位の源泉が分析でき、かつ、どの部分にボトルネック・改善の余地があるのかがわかるようになるのです。

さらに、現在は「バリューチェーン」という概念が示す範囲は広がっています。ポーターは、企業の「モノの動き」に着目し、そのコストとマージンを加算したものをバリューチェーンと呼んでいました。

しかし、現在では、コストとマージンに着目せず、自社事業の流れをプロセスに分解し、それぞれのプロセスをステップに分けたものも「バリューチェーン」と呼ばれています。

この広義のバリューチェーンは新しいビジネスモデルを発想したり、他者(顧客や競争相手)との提携や協力の余地について、貴重な示唆を与えてくれます。

たとえば、既存事業のプロセスを入れ替えることで、新たな競争優位を構築することが可能になります。一例としては、製造をした後で、販売することが一般的だったパソコン業界で、販売(受注)した後に、製造するビジネスモデルを構築したDELL社は、バリューチェーンを組みかえたことで、成功した有名な例です。

また、狭義のバリューチェーンは企業単体で事業プロセスを捉えたものですが、この広義のバリューチェーンでは、サプライヤーをも含んだ概念であり、それが、サプライチェーンマネジメントにつながっています。サプライチェーンマネジメントは、「購買・生産・流通・販売の各サプライチェーンを有機的に組み合わせることで、サプライチェーン全体の効率性を高め、顧客の価値を高める」ことを目的としています。先程のDELLはまさに、自社のバリューチェーンだけを考えるのではなく、外部リソースも含めたバリューチェーンを描くことで、新たな事業モデルを構築することが可能になりました。

現在、技術革新や国際化などの外部環境の急激な変化を受け、バリューチェーンを組み直さなくては、事業がなりたたないことがしばしばあります。また、競合との戦いの中で、競争優位を維持していくために、自ら積極的にバリューチェーンを組み替えなくてはならないこともあります。

このような環境下において、世界的なコンサルティングファームであるボストンコンサルティンググループ(以下BCG)は、バリューチェーンを組み替える際に、必要な観点として以下の5つをチェックリストとして挙げています。

(1)バリューチェーン全体の中でコストの割に付加価値の低いところはどこにあるかを見つける

ビジネスにおいては一般的に、人手に頼る部分は、時間の経過とともにコストの割には付加価値が低くなってしまうことが多いものです。銀行員の集金業務やコピー機のメンテナンス等のルート営業、酒屋の配達などがその例です。結果として、流通における中抜きや貿易における商社の排除などが起こりえます。

(2)自社の事業は、顧客のバリューチェーンの一部か、全部か

自社の事業が顧客のバリューチェーンの一部であれば、再構築されたときの自社の製品の位置づけが問題になります。たとえば、従来、パソコンは各機能の性能の差を問われてきましたが、ネットワーク環境においてはシステム全体の中でのパフォーマンスが問われるようになります。自社の事業がバリューチェーンの全部であるならば、競合がバリューチェーンを解体したときの影響を全体として考える必要があります。

(3)自社の事業で、ネットワーク化によって影響をうけるのはどこか

いままでは物的流通に頼っていたものがネットワークと通信網に乗るということも考えられます。たとえば、現在、音楽CDそのものは減少し、インターネット配信による楽曲提供が拡大しています。

(4)現在の戦略的資産のうち、負債となるものはどれか

従来重要だった販売人員やメンテナンス組織などが、バリューチェーンの再構築により不要となると、従来の強みが負債へと転化することになります。負債を抱えたままでは十分な対応策がとれないことは、時としておこりえます。

(5)どのような新しい活動・能力が必要になるか

IT化の進んだこの時代には、自社のバリューチェーンの一部にITを活用することで、バリューチェーンの組み換えが可能になります。そのためには、自社ではどのようなITの活用方法があるのか、ITを活用するためには、どのようなタスクがあるのかを見極める必要があります。

BCGでは、まず自社事業のバリューチェーンを描いたあとで、上記のチェックリストで自社事業を分析する必要があると説いています。

そのうえで、BCGはバリューチェーンを組み替える方法として以下4つのパターンに分類しています。

1)ひとつの要素で支配的地位を確立する(レイヤーマスター)

流通業における強い企業はバリューチェーンの要を抑えているわけで、家電のヤマダ電機のように強力なバイイングパワーを発揮できます。一般的にメーカーはバリューチェーンを丸抱えしがちですが、マイクロソフトやインテルは特定の付加価値部分に集中する方針をとっています。日本のメーカーでもキーエンスやロームは特定の部品に関する技術に極めて強く、顧客の大手メーカーの利益率をはるかに上回っていることが有名です。このような強みを確立できていれば、他の付加価値の部分については、アライアンスを組むことが可能になるのです。

 

2)バリューチェーン全体のプロデューサーになる(オーケストレーター)

独立したプレーヤーが連なる新たなバリューチェーンを構築・運営し、全体の価値を高める方法です。先程例で挙げたDELLは、従来の在庫販売型をやめ、受注生産を効率的に行うシステムを採用しました。同社は部品メーカーの組織化やアウトソーシングに長けた企業の究極の姿といえます。日本ではミスミが金型部品の商社として、顧客の購買代理店として独自のコンセプトを持っています。営業マンを抱えず、生産もすべて協力部品メーカーにまかせている点がユニークです。

 

3)既存のチャネルの弱みや欠陥をついて新市場を開拓する(マーケットメーカー)

たとえば、家電ディスカウンターやメーカー系列店の弱みを突いたり、店舗を持たない金融機関が電話センターや他行のATMを利用して顧客を獲得するなどです。新市場創造の例としては、リクルートが作り上げた広域の不動産流通市場が挙げられます。「週刊住宅情報」は、不動産屋に足を運ばないと物件を見つけられなかった消費者と、不動産屋の間に新しいマーケットを提供した例と言えます。また、中古車販売のオークネットも、通信衛星を活用した中古車の映像の配信により、広範囲で活発な取引を可能にしました。

 

4)ナビゲーターになる(パーソナル・エージェント)

インターネットの発展に伴い、無数の情報を整理してくれるナビゲーターが購買代理店として求められるようになっています。ナビゲーターはニーズに応じて、ソフトウェア、店舗、FP、コンサルタント、エージェンシーなどさまざまな形態をとります。アマゾンはナビゲーターの機能のほか、マーチャンダイザーや生産管理システムのオーケストレーターとしての側面まで含んでいます。

 

このように、自社の事業をバリューチェーンで理解し、そのバリューチェーンの中身をしっかりと見極め、チェックすることで、自社事業の再構築が可能になります。これは、自社の事業がうまくいかず行き詰っているときに行えばよいわけではなく、たとえ自社の事業が順調な時も、競争優位をより確固たるものにするために、求められる作業と言えます。

また、既存のビジネスの改善だけでなく、新たなビジネスチャンスを探す際にも、バリューチェーンの概念は有益です。先行している事業者がいたとしても、バリューチェーンを組み替えることで新たなビジネスが生まれる可能性があります。また、新規事業のアイデアが生まれた際も、事業アイデアをバリューチェーンで並べることで、実際にビジネス化が可能かどうかを確認することができます。このように、バリューチェーンは現在のビジネスにおいて、非常に有益なフレームワークであるといえます。

以上

最終更新 ( 2010/10/27 11:03 )