参入障壁と撤退障壁

参入障壁と撤退障壁。製薬業界、携帯キャリア業界、居酒屋業界など世の中には様々な業界が存在します。そして、それぞれの業界の特徴を分析する際の重要な切り口に、参入障壁と撤退障壁という2つの概念が存在します。

【参入障壁について】

参入障壁とは新たなプレイヤーがその業界に入ってくることを阻害する「カベ」であり、それが高い業界と低い業界があります。参入障壁には大きく分けて3つのパターンがあります。1つ目は法律です。例えば最近までは酒店やタバコ店を新たに開業することには、許認可の高いハードルがありました。一方でラーメン屋を開業する際には保健所への届出といった低いハードルしかありません。

2つ目は規模の必要性です。例えば新日本製鐵の好業績を見て「当社も製鉄業に参入しよう!」としても、高炉を1つ建設するには数千億円~数兆円の投資が必要であり、おいそれと参入できる業界ではありません。一方でネットショッピングのサイトを立ち上げるには1名の担当者と数十万円の資金があれば可能です。

3つ目は経営に必要なリソースが既存プレイヤーによって既に独占されているかどうかです。例えば自販機で清涼飲料を販売するビジネスに参入しようとしても、人通りの多い場所の自販機設置に適切な土地は、既にコカ・コーラやサントリー等の自販機で埋まってしまっているわけです。この3つが主たる参入障壁なのですが、それ以外にも「出会い系サイトは儲かるが、当社のイメージを崩す」といった様々なガベがあり得ます。

「参入」という言葉は、2つの異なる意味を持つので留意が必要です。当該のビジネスをとにかく始めさえすればそれを参入できたという場合があると共に、そのビジネスが一定の成功をおさめて初めて参入できたと定義する場合もあります。いわゆるビジネスではありませんが、マンガ家になる参入障壁を考えてみましょう。紙とインクとペンさえあれば、誰でもマンガを描くことが出来ます。参入障壁は極めて低いです。一方で「少年ジャンプ」といった著名マンガ誌へ掲載してもらうまでの苦労は並大抵ではありません。参入障壁という言葉をどの意味で使っているのかを意識する必要があります。

上記の留意点とも関わるのですが、参入障壁を検討する際の対象となる業界は厳密に定義しないと議論がちぐはぐになりかねません。例えば一口にパソコン製造業といっても参入障壁が高い場合と低い場合があり、それは別業界と考える必要があります。例えばレッツノートなどの最先端の性能(重量、電池の持続時間、衝撃への耐久性など)を持つPCを製造するにはヒト、モノ、カネといった膨大な経営資源が必要であり参入障壁は高いです。一方で重たかろうがデザインがよくなかろうがとにかくWindowsが動きさえすれば良いPCなら、個人のマニアが秋葉原で買い集めた部品を組み立てることが新規参入と呼べるわけです。

参入障壁は新規参入する企業にとってみれば低いほうが良く、既存プレイヤーにとっては高いほうが都合が良いです。この事実をうまく使うには、参入障壁の低い業界に入った後、自ら参入障壁を築くことが求められます。例えば、自ら音頭をとって業界団体を作り、自社のやり方をデファクトスタンダードに持ち込むなどの方法があります。

また一般論として参入障壁が高い業界であっても、自社にとってはカベが低い場合があります。なんらかの優遇措置を受ける条件に適合している、巨大企業とコネクションがある、革新的な技術があるので既存プレイヤーに独占されたリソースを必要としない、などのケースです。新規事業を起こす場合の重要ポイントと言えるでしょう。

【撤退障壁について】

参入障壁と対になる概念が撤退障壁です。ビジネスが失敗した際に、あっさりと止めることが出来やすいのか、おいそれとは止めにくいのかは業界によって異なります。撤退障壁も大きく分けて3つのパターンがあります。まずは固定費/変動費の比率が撤退のし難さと密接に関係します。土地や設備などに大きな初期投資が必要なストック型(固定費大)のビジネスの場合は簡単に止めることが出来ません。事業をストップした後も固定費が流出し続けるからです。逆に変動費が大半のフロー型のビジネスでは、止めた後は変動費が発生ないのは当然であり、また固定費の流出も極小です。

撤退障壁の2つ目のパターンは上述した「ストック」のマーケットが存在するか否かです。例えば設備投資した旋盤がいかに高額であったとしても、中古市場で購入価格の8割で売却できるなら、撤退障壁は低いと言えます。大量の人員を抱えていても、すぐに他社に転職できるなら廃業へのハードルは低いです。土地、建物、営業権などにも同じことがあてはまります。

3つ目のパターンは止めてしまうと顧客に迷惑がかかるかどうかです。例えば清涼飲料メーカーの1つが廃業したとしても我々は寂しい思いをする程度ですが、東京電力がもし廃業したなら、関東地区の住民の生活は成り立たなくなります。この3つ目の要因に関しては、法律や契約などで撤退があらかじめ禁止もしくは強く拘束される場合も多くあります。主な撤退障壁はこの3つですが、それ以外にもステークホルダー(株主、債権者、取引先など)が多数存在してその利害が複雑にからまっている場合など、撤退が困難となる様々な要因があり得ます。

ビジネスを始めたが業績が思わしくない。そんな時に撤退障壁の大小を考えてももう手遅れです。ビジネスを始める前に撤退障壁の大きさを検討し、もしそれが大きそうな場合にはどのようにそれを軽減するのか、あるいはそのリスクの大きさに見合うだけのビジネスチャンスなのかを綿密に検討しましょう。

【参入障壁と撤退障壁の組み合わせ】

参入障壁の大小と撤退障壁の大小を2×2のマトリクスに描くと、全ての業界は4つの類型のどれかにあてはまることがわかります。4象限のうちどの場所が良いかはいちがいには言えないのですが、自分たちの既存ビジネスはどのタイプなのか、あるいは自分たちが始めようと検討している事業はどのタイプなのかを知っておく必要があります。



以上
最終更新 ( 2010/05/11 14:18 )