BoPビジネス

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BoP(Bottom of the Pyramid)とは、年間所得が3,000ドルに満たない層(低所得者層)を示しておりその数は40億人にも上るとされています。もともとは、富裕層を頂点とした所得別人口ピラミッドの底辺に存在する層という意味合いで使われていましたが、国際金融公社(IFC)と世界資源研究所(WRI)による『The Next 4 Billion (2007年)』(※1)という論文が発表されて以来、『Base of the Economic Pyramid』という表現が定着しているようです。

 

BoP層は世界に分散して存在していますが、特に多いのはアジア地域で28億人とも言われています。次いでアフリカ・南米と続きます。源BoP層の殆どをアジア・アフリカ・東ヨーロッパ・ラテンアメリカ・カリブ海域といった地域で占めていると考えられています。各地域で分布に差はあるものの、特に農村部に集中しているのが現状です。BoP層は家計の殆どを食糧費として使用しており、BoPが行うその他の経済活動は先進国及びグローバル企業にとって魅力的なものではないと考えられてきました。どちらかといえば援助対象として捉えられていたと言っても良いでしょう。しかし近年の先進国市場の急激な冷え込みを機に、多くのグローバル企業が新たな市場開拓手法としてこのBoP層を対象としたBoPビジネスに注目するようになってきました。BoP層の人々は食糧や医療といった必要最低限の物にしか投資しない(出来ない)ため新たな消費が生まれにくいと考えられてきましたが、日々の生活にも困る人々であっても、自らが必要とするサービス・製品には相応の対価(ただし同一のサービス・製品に対し、中間層に比べて高い対価を払っているのが現状※2)を支払っているという事実がわかってきたからです。加えて40億人という膨大な数の人々から生まれる市場は5兆ドルとも言われており、企業にとっては魅力的な市場と言えるでしょう。今まで接触を持ってこなかった人々が、実際には大きな市場を作る可能性があった。こうしたことに気付いた企業は、早期からBoPビジネスを手掛けるようになりました。P&G・フィリップス・ボーダフォンといった様々な業界のリーダー達が独自の展開を進めています。現在では、BoP市場に関する知見が集まってきており新たに参入する企業にとっても十分に成功の可能性があります。加えてBoP層に対して、サービスや製品は未だ十分な供給がなされておらず、こうした状況はBoP層にとって不利益であるだけでなく多くのグローバル企業にとってもビジネス機会が存在することを示しています。

 

BoPビジネスの定義

日本においてもBoPビジネスに関する認識は広まっていますが、表面だけをとらえた解釈が多いことも事実です。『先進国に存在する既存のサービスや製品をBoP層に合わせた形(価格・分量等)で販売する』といった単純な考え方ではありません。確かにBoP層に向けサービスや製品を流通させるうえで、『手頃な値段(Affordability)・アクセスの良さ(Access)・入手のしやすさ(Availability)』は重要であり、BoP層が今まで容易には手にできなかった先進国のサービスや製品をBoP層に適した形で提供するだけでもそれなりのビジネスにはなるでしょう。しかし、本来のBoPビジネスとは、BoP層を単に新たな消費者としての顧客ととらえ販売を行うだけではなく、BoP層を事業パートナーとしてとらえビジネスへの参加も促しBoP層の生活レベル及び所得向上を実現し、継続性・成長性のあるビジネスを展開していくことです。日本でも経済産業省が『BoPビジネス政策研究会報告書』を発表しておりその中でBoPビジネスは『主として途上国におけるBoP層を対象(消費者・生産者・販売者のいずれか、またはその組み合わせ)とした持続可能なビジネスであり、現地における様々な社会的課題の解決に資することが期待される新たなビジネスモデル』と定義しています。これからもわかるように、BoPビジネスはBoP層を単なる消費者としてとらえるだけでなく、サービスや製品の生産者・販売者としてビジネスの担い手としてとらえ、持続性のあるビジネスを展開すること、と考えることができます。

 

企業がBoPビジネスに取り組む意義

日本国内も含め先進国市場は成熟しており、縮小傾向ともいわれる中、グローバル企業の多くは新興国・途上国市場へと進出していきました。しかしながらこれらの国においてもある程度の経済力を持った中間層以上の市場ではすでに競争が激化していると言えます。そうした中、将来の中間層以上に成り得ると期待されるBoP層へアプローチをすることは将来に向けた市場開拓としての意義があると考えることができます。あわせて、新たな地域でビジネスを展開することにより新たな販路の確保にもつながるでしょう。またBoP層が存在する今まで未開拓であった地域には、企業が製品を生産するにあたって必要な原材料はもちろん、優秀な人材が眠っているケースも多く存在し、企業経営に必要な資産を新たに調達することも可能になります。人材に関しては現地において、競合に先駆け優秀な人材を比較的安価で確保できるというメリットだけでなく、新興国におけるビジネス展開を自社人材に経験させることで将来のリーダー育成に役立つというメリットも存在します。原材料については、新たな地域からの調達を通して、安定調達に向けたリスク軽減が可能になる他、既存原材料の代替と成り得る新たな原材料入手の可能性もあります。また、サービスや製品の流通過程では、現地に適した形式を採用する必要があり、結果としてコスト改善につながります。既存のサービスや製品が現地に適さない場合には新たに開発する必要がありますが、そのために自社だけでなく外部にも協力を要請することで、今までに無い知見の蓄積が可能となります。BoPビジネスは社会貢献という側面も持っているため、活発な意見交換が可能となるようです。また直近では、新興国向けに開発したサービスや製品を、逆に先進国にも流通させるという実例も出てきています。新興国向けに開発したものが、先進国でも十分通用する競争力のあるものに仕上がっているというわけです。これは企業にとってメリットの一つと言えます。

以上を踏まえBoPビジネ取組意義をまとめると、以下の5項目があげられます。

 

1.      将来の市場開拓

2.      流通チャネルの強化

3.      原材料の安定調達及びコスト改革

4.      人材改革

5.      サービス・製品の改革

BoPビジネスに取り組む意義、企業が感じる魅力は企業ごとにそれぞれ異なりますが、上記の項目いずれか、または複数の項目を求めていると考えてよいでしょう。

 

BoPビジネスの実例

先進企業を中心に進められているBoPビジネスの実例を紹介します。これらの実例を検証する上で重要になる要素として『社会的変革視点・パートナーシップ・ロングターム思考』があげられます。企業だけでなく社会全体にもイノベーションを起こすことが出来るか、また新興国や外部組織との協力関係を築き事業を展開しているか、そして単発的ではなく永続的な企業の成長を描いているか、といったことが重要と言えます。

 

実例1:ボーダフォン

多様な通信サービスを提供しているボーダフォンでは、途上国への携帯電話普及にも力を入れています。その一つに、子会社のサファリコムを通してケニアで展開している、M-PESAと呼ばれるモバイルペイメントサービスがあげられます。現地では貧困から家族を救うために農村から都市部へと出稼ぎにくるBoP層が多く存在しますが、銀行口座を保有することが出来ないため農村の家族のもとへの送金も十分に行えないという状況にありました。そこでサファリコムは送金専用のM-PESA口座を人々につくらせ、携帯電話のSMSを利用して送金が可能になるサービスを展開しました。2007年のサービス開始から約2年間で会員600万人以上、送金規模も30億ドルを超えています。このM-PESAの送金サービスは、貧困であえぐケニア農村のBoP層へ新たな資金の流入を生んでいます。都市部で出稼ぎをしても、口座が無いために家族のもとへすぐに送金ができず、自身の手で運ぼうにも長距離移動手段は高価で出稼ぎの意味が半減してしまいます。またそもそも治安が悪いため多額の現金を持ち運ぶこと自体が危険ということもあり、BoP層が所得向上を目指すにあたり課題が多かったのです。こういった状況をM-PESAの送金サービスにより抜け出すことができるため、ボーダフォンとサファリコムの取り組みは、国に広がる貧困という社会問題を解決につながるだけでなく、M-PESAを利用するために必要な携帯電話の普及、つまりインフラ整備という側面も持っています。こうした社会貢献としての意義から、M-PESA事業展開に向けてはイギリス政府をはじめ国際機関、NPO/NGOといった多くの外部組織から協力を得ることができました。サファリコム自体はケニアにある企業であり、現地のオペレーションを担当しています。BoP層の実態把握はもちろん、少なからず現地の雇用創出にも貢献しています。当然ケニアでの成功例を活かし、アフリカのその他の地域に存在するBoP層に対して同様のサービス展開を始めていますし、国際送金サービス自体は先進国でも需要があるため、長い視点でボーダフォンはこの事業に取り組んでいると考えることが出来るでしょう。

 

実例2:プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)

グローバルに展開する世界有数の一般消費財メーカーであるP&Gは、新興国・途上国に安全な飲料水を提供するために粉末の浄水剤であるPURという製品を提供しています。BoP層の多くが不衛生な水を利用することによる健康問題を抱えており、P&Gのこの事業は安全な飲料水の確保という社会貢献という大きな意義を持っていると言えるでしょう。P&Gは事業展開当初、現地での流通については自社で新たに構築する方針を取っていました。しかし、販路の構築に多くの時間がかかるうえ、安全な飲料水を摂取することが健康問題の解決につながるという啓蒙活動も行う必要があり非常に多くのコストがかかることがわかってきました。そこで販路については現地のパートナーを利用し自社でのコストを可能な限りおさえるようにしました。啓蒙活動についてはユニセフや赤十字といった国際機関とパートナーを組み、安全な飲料水の重要さをBoP層に辛抱強く訴えていきました。こうした戦略が功を奏し、自力で販売していた時期と比べ、PURを25倍以上流通させることが可能になりました。また、P&GはPUR自体の販売による利益を重視してはおらず、新興国・途上国での流通基盤の構築や自社ブランドイメージの向上といった長い視点で事業をとらえています。こうしたP&GがPURを提供している地域では、将来的に現地のBoP層の生活レベルが向上した際に、自社の顧客となる可能性が高いと考えることができます。

 

BoPビジネスの今後

BoPビジネスは企業にとって継続性・成長性のある新しいビジネスモデルであり、従来のCSR活動の一環として行われている社会貢献活動とは異なるものと考えることが出来ます。企業にとっても挑戦し甲斐のあるビジネスと言え、海外では多くのグローバル企業が取り組むようになってきています。冒頭の説明通り、今後は新興国が新たな市場を形成していくと考えられるため、単に新市場を狙ったビジネスよりも、社会貢献の側面もあるBoPビジネスの重要性は増していくと考えられます。日本企業でもソニー・日立製作所や味の素・ヤクルトといった企業がBoPビジネスを展開していますが、より多くの国内企業がBoPビジネスに参画していく必要があるでしょう。国内市場が長く停滞する中、グローバルでの新たな市場を開拓する必要がありますし、次世代を担う人材育成を考えてもBoPビジネスは国内企業にとって必要な考え方なのではないでしょうか。

 

 

※1 『THE NEXT 4 BILLION : Market Size and business strategy at the Base of the Pyramid』Allen L. Hammond, William J. Kramer, Robert S. Katz, Julia T. Tran, Courtland Walker, WRI, IFC

 

※2 同一のサービス・製品を得るためにBoP層が中間層以上の人々に比べ高い対価を払っていることを『BoPペナルティー』と呼ぶ。BoP層が暮らす地域にはインフラや販路が十分に整備されていないため、コストが上乗せされ結果として高価になってしまう。もともと貧困な人々がさらに高い対価を払う必要があるため、サービスや製品を購入することが出来ずに悪循環に陥るため問題視されてきた。

 

参考:

『次なる40億人(WRI・IFC)』・『BoPビジネス戦略(NRI)』・『ネクストマーケット(C.K.プラハラード)』

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最終更新 ( 2014/07/29 17:53 )