食べるラー油の大ヒットに迫る

 

 

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2010年、「食べるラー油」は、大ブームになりました。

雑誌『日経トレンディ』が毎年発表している「ヒット商品ベスト30」の2010年版でトップの座を獲得し、誰もが認める大ブームを巻き起こしています。本ページのアップ時点(20112月)でもまだまだ店頭では品薄状態が続いており、人気の衰えを全く見せていません。ここでは、「食べるラー油」がブームになった原因について探ってみたいと思います。

 

まずは、「食べるラー油」について少し説明します。

本来、「ラー油」とは調味料でした。中華料理の際には自宅の食卓にものぼる小瓶に入った、特に餃子に利用される調味料で

今回大ヒットになった「食べるラー油」は、フライドオニオンやフライドガーリックが大量に入っており、従来の餃子やラーメンの味付けといった調味料としての使われ方よりも、ご飯にのせたり、冷奴や和え物、サラダなどにのせたりといった具合に、「美味しいおかず」として幅広く利用されています。

 

ブームの先駆けとなった商品は20098月に桃屋から発売された「辛そうで辛くない少し辛いラー油」(110グラム入り、オープン価格、実売価格は400円前後)です。その後、他メーカーからも次々に発売されました。今年、桃屋に続いて食料品大手のエスビー食品 「ぶっかけ!おかずラー油チョイ辛」を発売したことで、「食べるラー油」は完全にブームになりました。さらに、そのブームは飲食店やコンビニにも飛び火し、派生商品からもヒット商品が続出しています。2009年は約14億円の市場規模が、2010年は約40億円に拡大する見込みだといいます。

 

「食べるラー油」を発売している桃屋やヱスビー食品は品薄状態が続くため、広告宣伝はおろか、メディアへの取材対応すら控えている状況です。それにもかかわらず、なぜ、ブームはここまで拡大したのでしょうか。ここからは「食べるラー油」がヒットした原因について分析をしていきます。

 

分析を始めるあたり、まずは、「食べるラー油」がブームとなったその下地について、「外部環境の変化」とその影響によって国内の「食品業界がどのようなマーケット状況だったかについて説明します。

 

 


【外部環境】

 

ヒットした外部環境をまとめると以下の通りです。

【「食べるラー油」がヒットした外部環境】

長引く不況の影響によって、人々は「不景気だ」と感じていた。

人々の「節約志向」が高まっていた。

「節約志向」の結果、「外食を減らそうという人が増加した。

また、不況の影響で、労働時間は減少し、家事に費やす時間が増加していた。

それらの結果として、「内食ブーム」となった。

それも、「料理慣れしていない人々」の内食ブームだった。

そのため、簡単に料理ができる材料の消費が増加していた。

 

 


<外部環境
キーワード1「長引く不況と低迷する景況感」

近年(2011年現在)、長引く不況が続いています。日本企業の各決算状況はかなり上向いていますが、株価も低迷し、人々の感覚としては、リーマンショック以降の不況が続いていると感じている人が多数を占めます。一部調査によると、現在(2010)81%の消費者が「今は不景気である」と感じており、その数値は減少するどころか、増加する傾向にあります。


 

 


<参考>

 

景況感各国推移」ニールセン調べ 2010

 

 

 

 

<外部環境キーワード2「節約志向」

長引く不況によって景況感が悪化しており、それにより、個人の節約志向が高まっています。過去の新聞記事データベース(日経テレコン21)を使って調べてみると、バブル景気のさなかの198991年の3年間には「節約志向」というキーワードを含む記事はわずか7件しかヒットしなかったのに対し、2010年に入ってから調べてみると、わずか5カ月間で410件もの記事がヒットします。メディアがあおっている側面はあるものの、実際のマーケットリサーチでも、「節約志向」を実感している人が多くいるようです。

 

 

 

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<参考>JMR生活総合研究所マーケティングサイト社』20086月調べ

 



<外部環境
キーワード3「外食の減少」

景況感の低迷や節奴志向にあいまって、外食を控える動きが広まっています。実際、1年前と比べて夕食を外食する回数は減少しています。調査結果では過半数が「変化なし」と回答している一方で、「増えた」人は合わせて1割、「減った」人は合わせると3割強に達しており、全体的には「減っている傾向にある」ことがわかります。

 

 

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<参考>『1年前と比較し夕食時に外食する回数に変化はあったか』マイボイス調べ20106

 

 

 

また、社団法人日本フードサービス協会の調べによると、20105月の外食売上高は4ヵ月連続の前年割れしています。牛丼のすき家を展開している()ゼンショーや、日本マクドナルドなどのファーストフード業界は元気なものの、外食産業の売上高低迷は続いています。

 



<外部環境
キーワード4「労働時間の減少」

長引く不況により、残業時間が減少しています。社会人の約5割が月間の残業時間が20時間未満という状況です。

 

 

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「残業時間の変化」 DODA調べ2010

http://doda.jp/guide/ranking/022.html

このように、残業時間が減少したことにより、労働時間が減少しています。

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<参考>『労働時間の変化』マイボイス調べ2010

 



<外部環境
キーワード5「内食の増加」

 

このような状況から、人々が家事に時間を振りかけるようになりました。その結果として、内食をする人が増加しました。外食をしていた人が、内食をするようになったのが、ここ1、2年のトレンドと言えます。

 

 

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<参考>『内食の頻度についてクロス・マーケティング調べ20102

 



<外部環境>キーワード6「加工調味料の売上増」

内食は増加したものの、デフレの影響で、実は食品マーケット全体では販売状況が伸び悩んでいます。2009は国内の総売上金額は99.9%でした。一方、内食志向の表れとして、調味料は売上が増加しています。その中でも、マヨネーズ、ドレッシング、つゆ、たれ、ケチャップ等の加工調味料の売り上げが伸びています。2009年、「つゆ・たれ」(111.9%)、「マヨネーズ・ドレッシング」(110.0%)と、堅調な伸びを示しています。一方、基礎調味料の食塩(93.5%)、しょう油(97.5%)、砂糖 99.1%)、酢(93.8%)、ソース(96.8%)、みそ(100.5%)は、伸び悩んでおり、はっきりと明暗がわかれています。

 

このように、本格的な調理に使用する調味料というよりも、簡単に料理に加えることができるものや、加工品に添付するものが売れています。

これは、簡単な調理をしていること人が増加していることを裏付けます。先述の2010年のヒットランキングの8位に「チンしてこんがり魚焼きパック」が入っているのも、簡単に調理することに関するニーズの現れと言えます。

そして、それは、結果として、「ちょい足しブームへと変化を遂げます。

 

 



<外部環境>
キーワード7「ちょい足しブーム」

 

テレビ朝日の人気番組「お願いランキング」で「ちょい足しランキング」がスタートしたのが2009年10月でした。これはインスタントラーメンなどの食材にトッピングして良く合うものをランキングする番組なのですが、放送開始以来若年層を中心に人気を博し、当初深夜枠の放映だったのが、現在(20111月)ではゴールデン枠になっています。

この番組が「ちょい足し」ブームを作った訳ではなく、ちょうど、世間のちょい足しブームにのってこの番組はヒットしました

内食でリーズナブルに食費を抑えながらも、安いだけでは満足せず、オリジナルの料理を作りたい。そんな消費者のニーズが「ちょい足しブーム」となりました。

クックパッドのレシピサイトなどでは食べるラー油の楽しみ方が「パスタにかける」「うどんに入れる」「チャーハンにかけた」など多岐にわたることが垣間見えます。まさに、ちょい足しブームにのったと言えそうです。

 

 

ここからは、実際に「プロダクト(商品そのもの)」を見ていきます。

 

 



<プロダクト
キーワード1「商品としての中毒性」

食べるラー油は従来のラー油にフライドガーリックやフライドオニオン、パプリカ、摺りゴマ、オニオンパウダーなどを加えています。香ばしい香りとサクサクッとした食感が特徴です。味は、うまみ成分がふんだんに含まれているのが特徴です。そして、噛んだ時に音が聞こえるほど食感があります。見た目の色は鮮やかな赤い色。特徴ある商品といえます。

 

また、味香り戦略研究所によると、「食べるラー油」は人間が病みつきになる味の要素「うまみ」「油」「塩」がすべてそろっている食材であると分析しています。これは、まさに病みつきになる商品の代表例である「ポテトチップ」と同様です。「食べるラー油」はこれに、「適度な辛さ」と「食感」が加わった商品なのです。

 



<プロダクト
キーワード2「想像をかき立てるネーミング」

ブームの起爆剤となった桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」ネーミングは特徴的です。「辛そうで辛くない少し辛いラー油」とは一体どんなラー油なのか?と消費者は想像します。購入前にイメージを湧かせる商品名をつけたことはヒットの要因の一つだと言えるでしょう。

 



<プロダクト
キーワード3「工夫されたキャッチコピー」

また、キャッチコピーとして使われた「食べるラー油」というフレーズも秀逸です。

桃屋が「辛そうで辛くない少し辛いラー油」を2009年8月に発売した際、同社は10112日の期間限定でCMを放映したのですが、その中で「食べるラー油」という名前が紹介されました。

本来ならば調味料的な位置づけである「ラー油」に「食べる」という枕詞をつけることにより、驚きによる興味喚起することができる秀逸なキャッチコピーです。

 



<プロダクト
キーワード4「コアバリューとずれたネーミング」

それ以上に素晴らしいのは、あくまでも「ラー油」とネーミングした点です。商品を実際に見たことがある人には、これが「ラー油」ではなく、ラー油で味つけされたガーリックフライであることがわかります。食べるラー油は、その特性を考えてネーミングをすると、「味付きガーリックフライ」としたほうが自然です。それをあくまでもラー油として売り出したことが成功につながりました。(「味付きガーリックフライ」ではヒットしたとは思いづらいです。)

食べるラー油はこの秀逸な名前によって、この商品たち「ラー油に近い、でもそのものずばりのラー油ではない」という認識を持たれ、ラー油から細分化した独自ジャンルを確立することに成功しました。こうなることにより商品は店頭でのスペースや消費マインドの中でポジションを獲得しました。

 

 

 



ここからは価格戦略を見ていきます。

 



<プライシング
キーワード「プチ贅沢」

 

先述した雑誌『日経トレンディ』が選ぶ「2010ヒット商品には4位に「プレミアムロールケーキ」が入っています。都内で行われた発表会では、渡辺敦美編集長が「不況と節約に疲れ、プチ贅沢商品が売れた年だった」 と、長く続いた安価至上志向から消費意欲復活の兆しが見え始めたと2010年のトレンドを振り返りました。ブームのさきがけとなった桃屋の食べるラー油も販売価格は400円ほどで、発売前は社内から「高すぎる」と声が上がったそうですが、テレビCMが始まった10月以降は、品切れを起こすほどのヒット商品となりました。まさに、プチ贅沢にハマった商品だったといえます。

安価なだけではヒットに結び付かず、「手軽な楽しさがあるか、ないか」を消費者が求めている風潮にマッチした商品といえます。

 

 

 



次は
プロモーション戦略を見ていきます。

 



<プロモーション
キーワード1「お詫び広告による飢餓感の演出

商品そのものから離れ、今度は食べるラー油のブームを加速した要素について考えてみたいと思います。まずブームの原因としてしばし言及されるのは、2009年に桃屋が出したおわび広告です。品薄になっていることを陳謝する内容だったこの広告は、ネットなどを通じて情報として伝播する中で、話題が話題を呼び、ブームを呼ぶ引き金になりました。

 

食べるラー油のような商品を通常購入するスーパーマーケットでは、品切れはタブーです。品切れ=店舗とメーカーにとっての機会損失、ということによります。(他の小売りと異なり、予約、取り置きはできません。)そのため、スーパーマーケットは小売りの中でも特に欠品のない業態です。しかし食べるラー油は話題に上りかけている商品なのにスーパーマーケットで購入できないという異常事態がメーカーから伝えられました。「いつ行っても買いたいものが買える」という暗黙の期待があるスーパーマーケットにおいても買えない商品というミスマッチが生まれました。これにより発生した希求感は非常に大きかったのではないかと考えます。品切れが起こす希求感の事例は、古くは石油ショック時のトイレットペーパーから、最近ではDSの人気ゲームソフトまで、枚挙に暇がありません。

 

また、食べるラー油のケースでは、その「『謝罪』フォーマットで実のところそれほどシリアスではない内容が訴求される」というミスマッチ感により、ネット上・口コミなど2次的な情報伝播源になり、結果として大きなブームになったという側面もあります。

 



<プロモーション>キーワード2「
アーリーアダプターの獲得

「食べるラー油」ブームの最初のきっかけを作った存在として、「マート族があったともいわれています。マート族とは月刊誌「Mart」(光文社)の熱心な読者のことで、会員登録している1万3000人がモニターとして誌面作りにもかかわっています。過去にも、パナソニックの「ホームベーカリー」や、P&Gの衣料洗剤「ボールド」をヒットさせています。 年齢層は幅広く、ほとんどが専業主婦です2009年7月にさいたまスーパーアリーナ(さいたま市)で開催された食品展示会にマート族50人ほどが特別招待されました。彼女たちが秋冬向けの新製品2000種類の中から1位に選んだのが、この食べるラー油でした。 「おかずにできる」というのが1位の理由だったそうです。本職のバイヤーたちが選んだのは別のタレ系調味料だったといいますその後、桃屋とMartは数々のコラボレーション企画を打ち出し、CMWebにまで読者が登場しました。そして、このマート族が最初の口コミの原動力となりました。

 

プロモーション>キーワード3「芸能人による告知効果」

ラー油味の具材をご飯にかけて食べる」という食べ方が広まったきっかけの一つとして言われているのは、実は京都・太秦の中華料理店『菜館Wong』で販売されているラー油です。元々は、近くにる松竹や東映の撮影所で仕事をするテレビや映画のスタッフや芸能人の間で口コミで広がったもので、2008年には女優の仲間由紀恵さんが、フジテレビの『SMAP×SMAP』出演の際に、この「ご飯にかけて食べる」ラー油を紹介しました。同じ頃、芸能人によるテレビや雑誌での紹介が相次ぎ、話題となりました。しかしこちらは、京都の太秦まで行かなければ手に入らない商品で「食べるラー油」への潜在的なニーズの下地を作ったと言えるでしょう。

 

 

 

 



最後に、ブームを作った2社の戦略を見ていきます。

 

 

 



<企業戦略1 「桃屋」>

 

ブームの起爆となった商品をマーケットに投入した桃屋は消費者をよく観察していました。不況により、これまで食事を外で済ませていた自炊をしない人たちが家で食べるようになり、より簡単に、どんな食品にも合う調味料を求めると予測をしましたそこで、調理経験の余りない人を対象にした何にでも使える汎用性の高い調味料を検討し結果として開発されたのが「少し辛いラー油」だったといいます。発売後、少しずつ売上を伸ばしてい、秋にロックバンド「怒髪天」の増子直純さんを起用したCMをテレビで流したところ、急上昇。日経 POSデータで、放送前に十数%だったラー油分野でのシェアが数週間で60%近くまでになりました。そのため、全国で品薄状態となってしまい、CM放送を一旦自粛したほどでした。

 



<企業戦略2「ヱスビー食品」>

 

日本でラー油といえば、もともとエスビー食品の独壇場でした。ですから、桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」の登場は、エスビー食品にとって青天の霹靂であったに違いありません。ラー油市場に陰も形もなかった桃屋に、突然シェアを奪われたのです。桃屋のシェアは最大で78.7%(20102月)に達したほどです。定番の「ラー油」をはじめ、数々のラー油商品で市場をリードしてきた『ヱスビー』ですが、ラー油市場が拡大する中でそのシェアは、大幅ダウンしてしまいました

まったく新しい発想の調味料ですので、普通であれば他社が追いつくのには時間がかかるものです。しかし、もともとラー油に強かったエスビー食品は、桃屋に遅れること5ヶ月ほどで「食べるラー油」を完成させます。ラー油のトップメーカーヱスビー食品が追随の商品「ぶっかけ!おかずラー油チョイ辛」の発売により、「トップメーカー参入でラー油戦争勃発」「ヱスビーがシェア奪還に乗り出した」など、数々のテレビ番組がヱスビーの参入を紹介ました。20103月にラー油を取り上げたのは14番組.放送時間は1時間2317秒。2月と比較すると、番組数、放送時間とも5倍に増加しました。つまり、ヱスビーの後だしが、火に油を注ぎ、ブームは爆発しました。

 

しっかり顧客を観察して新しい商品を作り出す、あるいは自社の強みを生かして他人が作った売れ筋商品を模倣する。いずれも戦い方として

正解であることの良い例だといえます。


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最終更新 ( 2014/07/29 18:06 )