脱予算経営



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【書籍データ】
書名:脱予算経営
著者:ジェレミー・ホープ、ロビン・フレーザー
出版社:生産性出版
価格:3000円+税
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4820118145/


【要約・解説】

年度の始めに予算をたて、投入する経営資源とそれによる成果を予測する。またそれの達成度合いに応じて従業員の評価が決まり、報酬が決まる。一見すると当たり前のことです。

そんな仕組みの問題点を著者らは3つの領域に分けて指摘しています。

1つ目は「予算は手続きが煩雑で多額のコストがかかる」です。本来であれば製造や販売といった直接価値を生む活動に活躍すべき優秀な人材の時間が、長期にわたって予算作成のプロセスに占有されてしまいがちなのはどんな会社にも共通する問題と言えます。もちろん予算を作成する多額のコストに見合う大きな価値があれば合理的なのですが、それに関しては2つ目の問題点として指摘されています。

2つ目の問題は、「予算は現代の競争環境とはマッチしていない」という点です。著者らはドラッカーの言葉を引用して端的にそれを説明しています。「経済、社会および政治の不確実性は高まっているので、多くの企業でいまだに実践されている類の計画策定は逆効果とまでは言えないにしても、無駄なものとなってしまっている」。昨今の激変する経営環境においては、1年間もの「長期」にわたって同じ計画を使い続けるのは非合理的だというわけです。

3つ目の問題は「『数値のゲーミング』にあまりにも多くの努力が向けられるようになった」ことです。著者らはそれを10個のコメント(発言例)で例示しているので、そのうちいくつかを下記に紹介します。

・かならず最低の目標値で交渉せよ。そうすれば報酬は最大となる

・削減されたときに備えて、常に必要以上の資源を要求せよ

・予算は必ず使い切れ。残せば次年度には取り上げられてしまう

・数値目標は必ず達成せよ。そのために余剰資源を溜め込んでおき、必要なときに実績に紛れ込ませろ

これらは、誰もが目にしたことのある現象かと思います。上記のような行動をとる社員が増えたなら、正確な経営状況の把握が不可能になるばかりか、無駄な出費が増えて業績が低下します。また場合によっては架空受注のような違法行為にまで発展するリスクを「予算経営」ははらんでいると言えます。

著者らは予算という硬直化した中央集権コントロールを廃止する「脱予算経営」により、環境変化に迅速に適応でき、また最前線への分権・権限委譲が可能なると説き、「脱予算経営の2つの頂上」と呼んでいます。

1つ目の頂上である「環境適応型組織」が実現されると、コスト削減/駆け引きの減少/迅速な対応/戦略への首尾一貫性/財務部門担当者から得られる価値向上/各種ツール(バランストスコアカードなど)からの価値増大が得られます。

2つ目の頂上である「環境適応型分権組織」が実現されると、利益増加/能力の高い従業員/革新/低コストの継続/より大きなロイヤルティを持った顧客/より倫理的な報告が得られるとされます。

では実際に脱予算経営を実践するにはどうすれば良いのでしょうか。予算に変わるコントロールツールについての記述は、例えば「共通目的と共有された価値観に従業員を結びつける」「チームが顧客の要求に応えられるようにする」といった抽象的なものが多く、脱予算経営実施マニュアルとしてはこの本はあまり役立ちそうにありません。

ただし1点だけ明確に述べられているのは、年度始めに決めた予算達成の度合いに応じた従業員評価の替わりになるツールです。従来の考え方を著者らは「固定的業績契約」と呼び、新しい手法を「相対的改善契約」と呼んでいます。年度が終わった「事後」に、同業他社などのベンチマークと比較してどれだけの成果を挙げることが出来たかで従業員を評価するという概念です。

【我々の考察】

著者らが指摘する予算経営の弊害は極めて的を射たものといえるでしょう。一方で、「よって、当社は来期から脱予算経営を実施する」とまでは思わない人が大半です。この書籍を刺激剤として、もっと議論を広げたり深めたりする必要がありそうです。

我々は以下のような問いを立て、それに答えるという試みをしました

<問1>著者らの指摘事項以外にも「予算経営」の弊害はないのか?

予算経営の大きな弊害に、資源配分の硬直化、すなわち全体最適の阻害があることは見逃せません。例えばAとBの二つの事業部門があったとします。期が始まってA事業の外部環境は悪化し、B事業の外部環境は好転したとしましょう。本来であればA事業部長はヒト、モノ、カネなどの経営資源を返上し、B事業に充当するように申し出るのがベストです。しかし予算経営を実践している会社ではこのようなことは夢のまた夢と言えるでしょう。

<問2>各社が予算と呼んでいるものの実態は少しずつ異なる。予算という概念をさらにブレイクダウンするとどうなるのか?

予算には、インプット(コスト)とアウトプット(売上)の予測値がベースにあります。そしてインプット(コスト)に関しては、売上に直接連動するコスト(製造原価、販売費用など)と直接連動しないコスト(福利厚生費用など)があります。これらのうち何を予算と呼ぶのかを明確にしておく必要があります。

また予算というものには、次のステップがあり得ます。
ステップ1:将来を予想する
ステップ2:なんとしても予想どおりの未来を実現しようと努力する
ステップ3:予想との差異を評価や報酬に結びつける

これらのどこまでを予算と呼ぶのかを定義づける必要があります。ちなみに日本の上場企業であれば業績予測を開示することは必須であり、ステップ1の意味では「脱予算経営」は不可能となります。

【問3】予算経営にもなんらかのメリットがあるはず。それは何か?

予算経営は成果を挙げることよりはリスクを低減することに意味がありそうです。予算を明確化することで、「極端なサボり」「野放図な設備投資」といったものにブレーキをかけることができます。

また、経営者や管理・監督部門が現場最前線での土地勘を持っていなくても、管理や統率が可能となります。数値だけを見ておき、予算数値との差異が生じればそこで「何かが起きている」ということがわかります。

【問4】予算経営をいきなり廃止するとどんなリスクがありそうか?

人材採用の際に「能力の無い人」「やる気の無い人」「悪意のある人」をはじくことで出来ていなければ、問3で述べたような混乱が起きるでしょう。また、トップや管理部門に現場感が無い場合はコントロール不能の状態に陥ります。

【問5】予算経営に向く会社と脱予算経営に向く会社がありそう。どんな業種?どんな戦略の会社?どんな風土の会社?

例えば出来たばかりのベンチャー企業であれば予算経営は不要でしょう。問2で述べたステップ1の「将来を予想する」は行うものの、ステップ2の「なんとしても予想どおりの未来を実現しようと努力する」は行うはずもありません。ベンチャーすなわち冒険なのですから、予想通りの未来が起きる、あるいはそれを実現すべきであるなどとは誰も考えていません。また、経営陣は現場感を持っているので予実の差異数値によるコントロールなど不要です。息の合った小人数のキーパーソンの集まりなので、資源配分は容易かつ臨機応変に実現できます。

一方で経営環境の変化が少なく、成果をあげることよりはリスクを避けることが重要な業種であり、おっとりした風土を持つ企業なら予算経営が大いにはまると言えます。都銀のT銀行などはその典型かもしれません。

以上の問と答えはまだまだ「一次仮説」というようなレベルのものです。皆さんなりの問や答えがあれば、ぜひ「 このメールアドレスはスパムロボットから保護されています。見るためにはJavascriptを有効にする必要があります 」宛てまでご連絡ください!

 

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