株式公開までの道のり

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ベンチャー企業を起こした人や、これから起こそうと思っている人の典型的なゴールは株式公開(上場)かと思います。筆者はあるベンチャー企業のCFOとして、株式公開までの道のりの「かなり良いところ」までもって行った経験があります。また、過去に筆者が顧問をしていた2社が上場しました。さらにはマザーズなどに上場している創業経営者の友人・知人も数名います。そんなわけで、今回は「株式公開までの道のり」というコラムを書いてみました。教科書的な理論というよりは、実体験を中心に記述しました。生々しくて役立つかもしれません。が、約10年前のことなので、今は状況が変わっていることもあるかもしれません。その点はご了承ください。


● なんといっても主幹事証券会社

○ 営業とのつきあい

株式公開の際には、いくつかの証券会社が幹事団をつくり、株を売りさばいてくれます。その中でリーダーシップを発揮するのが主幹事証券会社です。株式を公開するには、主幹事証券会社が「YES」と言ってくれる必要があります。様々なツテをたどって証券会社にアプローチをすると、最初は「営業」のような立場の人が来ます。会社の概要を紹介すると、たいていは「素晴らしいですね!」と言ってくれますが、本気にしてはいけません。この方たちは、株式公開に向けてのプロセスにおいて、意思決定権限を持っていません。

○ 公開引受とのつきあい

もし証券会社が多少とも興味を持ったなら、「公開引受部」と名刺に書かれた人がやってきます。この方が皆さんの会社に対してどのような印象を持つかは非常に重要ですので、全力で企業の魅力をプレゼンテーションする必要があります。公開引受の人が認めてくれると「主幹事宣言」という儀式が行われます。

○ 主幹事宣言

これは、証券会社が「主幹事を引き受けますよ。」という宣言ではありません。ベンチャー企業側が、「○○証券さん。株式公開の際には、あなたを主幹事にすると約束しますよ。」という宣言なのです。とはいえ、これは証券会社が承諾しないと、勝手に宣言させてはくれないという仕組みになっています。主幹事宣言をしたからといって、株式公開が約束されたわけではありません。私の大雑把なイメージでいうと、主幹事宣言をした企業の1割程度が実際に株式公開しているのではと思います(もっと少ないかもしれません)。

ちなみに私の経験で、後日談としてわかったことをお話します。○○証券に対して主幹事宣言をさせて頂いたのですが、なんとこの会社は当社と同業の3社程度からも主幹事宣言をさせていたのです。「ぼちぼち良さそうな会社にはツバをつけておこう」というのがその証券会社にとっての主幹事宣言なのですね。ベンチャー側から言うと、主幹事宣言をしたということは、「彼が4人ぐらい同時でつきあっている彼女たちの1人として認めてもらった」に近い状況かもしれないのです。

○ 審査とのつきあい

さらに証券会社が本気になると、名刺に「審査部」といった部署名が書かれた人がやってきます。審査をするのは証券会社にとっても労力がかかることです。ここで、やっと「この会社を上場させようか否か。」の判断プロセスに入ったわけです。ちなみに、「審査がやってきて本気で検討してくれたが、上場はNGだった」という例はいくらでもあります。私がベンチャー企業のCFOとして体験したのはこのあたりまでです。

ちなみに証券会社が要求する様々な書類(「一の部」など)を作成するのは、公開準備室の人が頑張ればなんとかなります。なんとかならないのは、企業の売上と利益。そして、その成長性です。業績の良い会社は上場できる。業績の悪い会社は上場できない。「あたりまえのこと」なのですが、結局はそれに尽きるというのが私の感想です。

○ 有名証券会社が良い?

野村、大和、日興。普通に考えると、これらの有名証券会社が主幹事になってくれると良いはずです。でも、自明とも言えるこのテーマ、意外と明確な理由が見つけにくいです。確かに超大手企業が500億円の増資をして資金調達をするといった場合には、これらの大手証券会社の販売力に頼る必要があるでしょう。でもベンチャー企業が時価総額80億円の時点で10%の調達をする、つまり8億円を売りさばいてもらうのであれば、中規模の証券会社でも無理なく出来そうです。

「大手証券会社は、買ってもすぐに売らない資産家のお客さんをかかえている。よって上場後も株価が値下がりしにくい」という説もあります。が業績の悪い企業の株価が高どまりしているなら、第三者が空売りを仕掛けることもできるわけで、そうなると値下がりします。であれば、これが大きな理由ともいえません。

となると、有名証券会社に主幹事になってもらうのが良いのは、「格好が良いから」という理由が意外と本当のところかもしれません。3大証券にこだわって未上場でいつづけるのも間違いではありませんが、中規模の証券会社を主幹事に上場することも選択肢として検討すべきでしょう。

● しゃれにならない「上場延期」

審査が通り、株式上場の日が来るのを「もういくつ寝ると・・・」と待ち望んでいると、どんでん返しが起きることがあります。実際に筆者がCFO的な活動をしていた時期に、S社というネットベンチャーの上場が直前(たしか前日!)に延期になりました(現在は上場しています)。

上場延期の理由は様々あります。反社会勢力とのつきあいがあった場合などは自業自得です。が、申請書類作成上の意図せざる不手際がみつかった場合などは目も当てられません。また、こういった直前の上場延期の多くは、「告発」「ちくり」によるものだと言われています。企業を経営していると、多少なりとも「後ろめたい」経験はあるかもしれません。それを隠すのではなく、事前に主幹事証券会社に開示して相談しておくことが重要です。

実際にある経営者の方は、マザーズ上場の1週間ほど前に、取引関係があった人から「○○のことを主幹事証券会社に言うぞ!」と脅されたそうです。彼としては何も恥ずべき点がなかったので「どうぞ。ご自由に」と対応したのですが、精神的には相当なプレッシャーを受けたそうです(もちろん、上場には何の影響もありませんでした)。

● 資本政策

資本金1千万円の会社が、いきなり株式公開することはないでしょう。資本金を、たとえば、3千万円、8千万円、1億2千万円と増資する。それから上場するのが一般的です。ではこの増資はだれが引き受ける(お金を出す)のでしょうか。究極の理想を言うと社長です。株式公開の直前まで、会社は100%創業社長のものであり、社長は今までに1億2千万円を出資しているというストーリーです。

○ 社長ひとりに大部分の株が集中していると良い(古典的考え方)

なぜ株式の保有比率が社長に集中していると良いのかについては、大きく二つの理由があります。ひとつには、会社のコントロール保持です。社長の持ち株比率が低いと、上場後に「ハゲタカファンド」などに株を買い占められ、株主総会でさまざまな要求を突きつけられるリスクがあります。仮にですが、上場後も社長が70%の株式を保有していたとしたら、このような心配はほぼ無いといえますし、51%(過半数)の保有率でも十分安心できます。

二つ目の理由は、上場後の売り圧力の軽減です。極端な例ですが、1%だけ所有している株主が20名いたとします。彼らは会社への思い入れが強くありませんから、上場したらさっそく株を売ろうとするでしょう。となると会社全体の20%もの株式が売り圧力として迫り、株価は大暴落してしまいます。そうならないように、「売るつもりが無い人」、すなわち社長に大部分の株式を集中させておくことを、主幹事証券会社は望むわけです。

○ 資本構成はフレキシブル?(最近の考え方)

上記のような考え方をあてはめると、たとえばベンチャーキャピタル(VC)が80%を保有している企業は上場など出来るわけがありません。なぜなら、ベンチャーキャピタルとは、企業が上場したらその株を売ることが生業である会社だからです。「80%もの売り圧力が見込まれるのに、主幹事を引き受ける証券会社があるわけない」というわけです。ところがワークスアプリケーションズという会社は、まさにそのような状況でしたが、見事に上場を果たしました(その後、MBOという別の理由により上場を廃止していますが)。市場での売却ではなく、事業会社との相対(あいたい)での取引など、様々なファイナス手法を駆使できると、必ずしもVC比率が高いことが問題にならなくなってきたようです。

また別の例で、社長:専務:常務の持ち株が、全体の50%:20%:10%というのは、何の不思議もありません。それが、27%:27%:27%だとすると、古典的な立場からみると異常事態です。上述した「会社のコントロール」「売り圧力」のいずれの点でもリスクがあります。でも、(具体例は知りませんが)、このような資本政策でも上場が可能な時代が来ているのかもしれません。

「資本政策は、一度実行してしまうと取り返しがつかない」と言われます。確かに、増資を引き受けてくれた先に「お金を返すから、株を返して」とは法律上言えません。しかし、最近ではさまざまなファイナンスのテクニックが駆使されるようになっており、以前と比べると「多少は取り返しがつく」時代となってきたようです。

● ベンチャーキャピタル(VC)

上記に「上場直前で資本金1億2千万円。100%社長が保有」という架空の例をあげましたが、どこかの御曹司でもないかぎり、それだけの個人資産を保有している人は稀です。そこで、多くの場合に登場するのはベンチャーキャピタル(VC)です。そこからの出資金で設備投資や人材採用を行うとともに、資本金や株数を増やして、上場直前の状態へともってゆくわけです。

○ 証券会社系のVC

大手の証券会社は、たいていその系列のVCを持っています。たとえばジャフコは野村証券系です。複数のVCがひとつのベンチャー企業に出資する場合は、これら証券会社系のVCが一番大きな比率をとり、リードベンチャーとして様々な役割を果たす場合が多いです。それぞれの時点での株式時価総額を算定したり、ワラント債を引き受けてくれたりします(ワラント債による新株引受権の発行は、もう今はやらないかもしれませんが・・・)。

ちなみに、素人考えだと「ジャフコが出資してくれたなら、野村證券が主幹事証券会社になってくれる」と思いがちです。が、私の経験ではほぼ関係ないです。その期待はしないほうが良いでしょう。

○ 銀行・生保系のVC

大手の銀行や生保もVCを持っている場合が多いです。彼らがリードベンチャーとなることはあまりありません。上記のような証券会社系VCが出資を決めたのを見ていて、「じゃあ、うちも少し入れます」といった行動をとる場合がほとんどです。リードベンチャーが出す金額だけだと少し足らないという場合は、これらのVCにも声をかけてみると良いでしょう。

ちなみに、彼らの多くは自分で判断する気がありませんから、リードベンチャーが「やっぱり出資は止めた」となると、銀行・生保系のVCも蜘蛛の子を散らすように、即刻逃げてゆきます。筆者自身、その苦い経験をしたことがあります。

○ 事業会社系VC、事業会社そのもの

事業会社がVCを持っている場合もあります。例えば、電通は「電通ドットコム」というVCを持っています。また、親会社である事業会社そのものがベンチャー企業に出資する場合もあります。理論的には、その事業会社から仕事がまわしてもらえるというメリットがあります。が私の経験では、それはあまり期待しないほうが良いと思います。出資を検討する部門が皆さんの会社を気に入ったからといって、現業の部門が同じ印象を持つかというと、そうとはいえないようです。

事業会社およびそのVCから出資を受けるのは、デメリットもあります。仮に電通ドットコムから出資を受けたとすると、博報堂関連の仕事はおそらくまわってこなくなります。事業会社の「色」がつく、メリットとデメリットを天秤にかけて判断すると良いでしょう。

○ 独立系VC

上記のいずれにもあてはまらない独立系のVCもあります。独立系VCは玉石混交です。サラリーマン根性ではなく、当事者として深くかかわってくれるVCが多いです。が、それが裏目に出ることもあります。キャピタリストの能力や人格を見定め、周囲の評判を様々集めて検討することをお勧めします。リスクはありますが、良いVCにあたれば、上場への道のりの心強いパートナーとなってくれるでしょう。

● 監査法人

最後に、監査法人についても少しふれておきましょう。株式公開の条件としては、監査法人の監査を受けていることが必要です。ただし、5年後に上場を予定しているのに、今期から監査を入れてしまうと無駄な費用が発生してしまいます。主幹事証券会社に相談して決めても遅くないでしょう。

あと、「あの監査法人に頼むと上場しやすい」などという噂も聞きましたが、実際はどこでも同じではないかという印象を持っております。

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以上