PBビール(プライベートブランドビール)について

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2009年7月24日、セブン&アイ・ホールディングス(以下「7&i」)とイオンは、それぞれサントリーと共同開発したプライベートブランドビール(以下「PBビール」)の「第3のビール」を発売した。ビール類飲料のPB発売は日本国内で初めての試みであり、価格も350mlで100円と業界最安値。他の第3のビールと比較して2割も安い。流通2強のPBビール発売が、発売日も製造メーカーも価格も同じ、という波乱の幕開けとなった。(ただし7&iは期間限定価格。詳細は下表「販売価格一覧」参照)

 


これにより、第3のビールをめぐる販売競争は一段と激しさを増している。


ではPBとは何か。小売業者が、自ら企画生産して低価格で販売する独自のブランド商品のことである。広告宣伝費がかからず、販売管理費も減るため、安価のでの提供が可能となる。これに対して、いわゆるメーカー品はナショナルブランド(以下「NB」)と呼ばれる。

歴史的には1960年ぐらいからPBの存在はあったものの、注目され始めたのは1980年代半ばからである。

もともと西友のPBとして始まった「無印良品」の独立や、ダイエーによる「セービング」など、商品数も豊富で圧倒的にNBより安いことが、消費者から支持されるようになり一定の地位を得ることになった。


















最近で言うと、2006年ごろからの石油価格の高騰でNBの値段が上がり、またサブプライムローンを発端とする経済危機により、安価なPBが人気を呼び、「日経トレンディ」が選ぶ「2008年ヒット商品ベスト30」の1位に、日経MJの「2008年ヒット商品番付」の西の横綱に選出された。


かつては、PBは業界シェアの低い中小メーカーに製造を委託していた場合が多く、「安かろう悪かろう」のイメージがどうしても拭えなかったが、近年は、大手流通グループと業界トップクラスの大手NBメーカーと共同で企画・生産するケースも多く、これによって、品質面でも安定するようになり、逆に消費者に対して「安心、信頼」というイメージさえ与えている。

しかし、特に多額の費用をかけてブランド力を築いてきた大手NBメーカーにとっては、PBの供給により自ら首を絞めることにもなりかねず、消極的なところも少なくない。

その典型として挙げられるのが、ビール業界であった。大手ビール各社はこれまで、自社ブランドを重視し、寡占状態の中で価格決定権を握ってきた。加えて、各社とも大量の広告宣伝を打って熾烈なシェア争いを繰り広げており、これ以上の価格下落は何としても防ぎたいと考えていた。そのためPBへの警戒感は非常に強く、キリンビールは、イオンのPB缶チューハイを受託していたメルシャンを買収後、PBの生産をやめさせたほどである。

しかし、今回、その一角であるサントリーが流通大手から生産を請け負うという形で手を組んだことは、サントリー自身を含むNB商品の売り上げ減少や値崩れにつながる可能性があり、業界に衝撃が広がっている。

そういった背景もあり、サントリーは今回の2社の新商品に関して、「あくまでも共同開発商品であり、PBとは考えていない」と発言している。一方、流通2社は「間違いなくPBである」と主張しており、その主張には食い違いが見える。

その背景にはビール業界の抱える強烈なPBへのアレルギーがあると言えよう。

それを乗り越えて完成した今回の商品には、確かにお互いの歩み寄りの痕跡が残っている。

例えば商品名だが、7&iは「THE BREW」、イオンは「麦の薫り」となっているが、PBの商品名は本来、「缶チューハイ」「ヌードル」など単純なものが多く、このようなブランド名を持つのは極めて珍しい。さらに下の方にはサントリーのロゴマークも入っている。(上記、商品写真参照)酒類は法令で製造元を明記することが義務づけられているが、ロゴまで入れた例は両社とも初めてとのことで、サントリーの強いこだわりが垣間見られる。

では、そこまでしてPBの製造に踏み切ったサントリーの狙いは何か。


サントリーは1963年のビール事業参入以来、万年4位と言われてきたが、2008年、初めて業界シェア3位の座を獲得し、同事業の営業黒字を初めて達成した。ビール部門では、2005年から3年連続で「モンドセレクション」ビール部門最高金賞受賞の高級ビール「ザ・プレミアム・モルツ」の販売が堅調だったことに加え、第3のビール部門で「金麦」が健闘したことが収益を押し上げた。

ただ、業界全体で見れば、サントリーの地位はまだ確立されたとは言いがたい。

今年1~6月のビール類市場のシェアは3位のサントリーが12.7%で、4位のサッポロビールは12.1%。差はわずか0.6ポイントでいつ再逆転されてもおかしくない上に、トップの座を争っているキリンとアサヒには依然水をあけられている状態である。

今回のPBビールに関し、7&iは年3600万本(350ml缶換算)、イオンは年3千万本の販売を目標としている。この販売量はサントリーのシェアを0.3~0.4ポイント程度押し上げる効果があると見られる。

何としても現在のシェアと黒字化した利益を維持したいサントリーにとって、自社NB商品への影響を差し引いても、圧倒的な販売力を誇る流通大手と組むメリットは大きい。


実際に発売以来、売上は当初予想をはるかに上回り好調で、品切れが続く店舗も出ているほどである。これは、そもそもビール類飲料というは各商品間で味の差がそれほどつかず、KBF(キーバイイングファクター 購入を決める要因)が認知と流通であるためだ。これにより、

サントリーが昨年初めて達成した業界シェア第3位の座を今年も維持するのはほぼ確実であると見られている。

そうなってくると、今度は他社も静観はしていられない。キリン、アサヒは現時点でPBの供給はしないと主張しているものの、サッポロは「今後の動向を見守りたい」と発言しており、第2のサントリーとなる可能性もあると言えるだろう。

また、PBビール発売の影響は消費者がPBに流れるだけにとどまらない。7&iとイオンは、PBの売れ行きが好調であることに裏付けされた消費者の低価格志向を背景に、NB商品についてもさらなる値下げ圧力を強める可能性がある。

流通に奪われた価格決定権の奪還は、ビールメーカーだけでなく食品業界全体の悲願だが、この流通最大手2社は消費者の支持を大義名分に、PB開発や卸を通さない直接取引などで、食品業界を巧みに切り崩してきた。

7月にキリンとサントリーが統合交渉に入ったと発表されたが、そもそもその大きな理由の一つは、規模をバックに圧倒的な購買力を手にした流通2強への対抗がある。しかし、今回のサントリーの業界を揺るがす新たな一歩は、キリンとの今後の交渉に影を落とす可能性もありそうだ。

長年その地位を守ってきたビール業界でも、いよいよ小売業界の影響力が高まってきた。今後の動向に注目したい。

 

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