オルニチンのヒットとその背景

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はじめに

永谷園の即席みそ汁『1杯でしじみ70個分のちから』が大ヒットしています。日経トレンディが発表した2010年ヒット商品ランキングでは10位にランクインしました。商品のヒットともに、有効成分であるオルニチンも話題になりました。このオルニチンが含まれる商品として、その他にもキリンビールの『キリン 休む日のAlc.0.00%』、キリンビバレッジの『大人のキリンレモン』、小岩井乳業の『大人のヨーグルト 朝、夜』等、各社新商品を次々と発売しヒットにつなげています。また、コンビニや食品スーパーに行けば、食品メーカーのしじみみそ汁は勿論、PBまで並んでいます。これらの商品全てに含まれている、アミノ酸の一種であるオルニチン。今回は、このオルニチンが大ヒットした背景とその要因に迫ります。

 

 

背景

近年では消費者の健康意識の高まりから、様々な健康食品やグッズが発売されています。特に、長時間労働や飲酒機会の多い社会人の疲労回復に関する話題が注目を集めています。疲労回復には肝臓の働きが関与しています。もともと肝臓は様々な役割を担っている臓器で、脳も含めた臓器の中で一番のエネルギーを消費している働き者です。しかし、肝臓は再生機能を保持しているため臓器の損傷に気づきづらく、『沈黙の臓器』とも呼ばれています。

ある報告によれば、人間ドッグで肝臓に何かしらの異常があると診断された患者の割合は1983年の時点で全受診者の9.6%だったものが、2009年には25.8%にまで上昇しているとのことです。現代人は肝臓を酷使しながら生きていると言えるでしょう。

 

次に、ヒットしたしじみみそ汁が含まれる即席みそ汁の市場背景を見てみましょう。

即席みそ汁の市場規模は2008年時で460億円と推定されています。内食回帰傾向やカップ型商品の発売で、徐々に市場は拡大してきましたがその成長も止まりつつあります。というのも、売り上げの多くを占める10個以上入りの大容量タイプは特売されるケースが多くメーカー・小売にとっても低い利益率の商品であること、また原材料の価格高騰による収益構造の悪化等の問題を抱えているからです。また今後は日本の総人口が減少していく中で、一人あたりの消費量が減少するという課題も抱えています。こういった状況を打破するために各社とも、新製品を相次いで発売しています。具材にこだわったプレミアムタイプや生みそタイプ、消費者の健康志向を受けた減塩タイプ等があります。

 

以上のように健康に関する話題の中で特に肝臓が注目されてきたこと、即席みそ汁市場活性化の次の一手が求められていたこと、そして日々の食事でも健康を気にしていきたいとする健康志向の高まりに後押しされる形で、今回の『オルニチン』が大ヒットしたと考えられます。このような背景から発売された『1杯でしじみ70個分のちから』の製品そのものについて見てみましょう。

 

補足:オルニチンとは

オルニチンは肝臓の働きをサポートするアミノ酸の一種です。肝臓の主な役割は、代謝(摂取した栄養素を体内で吸収できる形に変える)、エネルギーの貯蓄(ブドウ糖を貯蓄し、血糖値を調整)、胆汁の生成(消化吸収の補助)、解毒(アルコール等、有害物質の分解)等があげられ、オルニチンは中でも解毒作用の際に肝臓をサポートします。オルニチンを摂取することで、アンモニア解毒作用が促進されます。古くよりオルニチンが含まれる食材が肝臓に良いとされているのはこのアンモニア解毒促進作用のためです。オルニチンが多く含まれる食材としては、しじみ・キハダマグロ・チーズ・ヒラメ・パン等があげられ、中でも、しじみは他の食材に比べ、圧倒的に多くのオルニチンを含んでいます。

肝臓への働きかけ以外にも、健康・美容への効果も期待されており、欧米では古くよりサプリメントとして利用され実績を挙げています。日本でも2002年に食品としての使用が認可されました。

 

 

Product

しじみはみそ汁の具としてポピュラーかつ人気のある具材です。また古くから肝臓に良いということで知られてもいます。このようなしじみのもつわかりやすいイメージが、消費者に、『この商品は体に良さそうだな』と想起させることができ、ヒットにつながったといえます。

また、即席みそ汁といえば袋入りの商品が主流ですが、あえてカップ型にしています。袋入りでは茶碗やマグカップの用意や洗う必要があり手間がかかります。その点、カップ型ならお湯を沸かすだけで手間もかかりません。お酒を飲んだ夜や次の日の朝に、手軽に飲めるように工夫されているわけです。

次にネーミングを見てみましょう。

『しじみ70個分のオルニチン配合』とせず『しじみ70個分のちから』とすることで、効果が期待できそうだなと消費者に思わせることに成功しました。実際の消費者アンケートでもネーミングの効果が報告されています。また当時、殆どのカップ型みそ汁が具材や製法を謳うネーミングの中、『しじみ70個分のちから』という機能性を強調したネーミングは斬新でインパクトがあり、結果として消費者の目に留まるようになったとも言えるでしょう。また、パッケージには『お酒好きのあなたに』『お酒好きのお父さんに』といったフレーズもプリントし、ターゲットにささるような工夫をしています。

最後に商品展開を見てみましょう。

当初、購入者の殆どが男性と予想していましたが、テスト販売を行ってみると、男性6割女性4割と女性が意外にも多い結果となりました。これを受けて、カップ型だけでなく袋入りの商品の発売や、みそ汁だけでなく、しじみスープも発売したことが女性層にも受け入れられさらなるシェア拡大につながりました。

ただし、全国展開後、反響が良すぎたため長期間欠品するという事態も起きています。生産体制の整備や販売予測の精度を向上させることが今後の課題と言えるかもしれません。

 

 

Place

今でこそ、コンビニや食品スーパー等、多くの業態で販売されている商品ですが、発売当初はコンビニ限定のテストセールスからスタートしました。これは、即席みそ汁カテゴリーにおいて、機能性を強調した新たな商品であったため全国展開する前に流通限定でテストを行い、結果を見たいといったメーカー側の思惑や、小売バイヤーの評価があまり良くなかったことが要因です。

テストセールスの結果が好調だったことを受け全国展開へと拡大しますが、この際の販売戦略が的確であったことが販売好調につながったと言えます。テストセールスで販売したカップ型商品は継続し、スーパー向けに3個入りの袋の商品を新たに発売したのです。コンビニとスーパーでは消費者の属性が異なり、販売チャネルに合わせて商品展開を調整したことが成功の要因の一つです。

また店頭展開においても工夫がなされています。専用什器を設置することで、通常のみそ汁売り場だけでなく、酒類売り場でも展開しました。おかげで通常はみそ汁売り場に来ない消費者層も獲得することができ、売上や認知度の向上に効果がありました。こういった専用什器の設置は、設置に向けた交渉が難航しやすく、また什器そのものも決して安くはなく、設置の際には多くのコストをかけることになりますが、この積極性が功を奏したと言えるでしょう。

流通チャネルの選択からチャネルごとの展開戦略、そして店頭施策まで、漏れの無い一連の戦略が組み立てられた好例と言えるでしょう。

 

 

Promotion

全国展開後のプロモーションの中心はTVCMでした。ロングセラーとなっている『あさげ』に代表されるように、即席みそ汁市場において永谷園の知名度は抜群です。そのブランド力を活かし、『永谷園のみそ汁ならば』と消費者に安心感を与え、また永谷園のCMに多数出演している和田アキ子を起用し、奇をてらうことなくプロモーション活動を行ったことが、みそ汁という日本の食卓で定番の商品を売るに当たり、消費者に好印象を与えたのではないでしょうか。

永谷園では『冷え知らずさんの生姜シリーズ』という新カテゴリー商品ではTRFを起用しインパクトのあるTVCMを放送しており、それぞれの商品やカテゴリーにあったプロモーションを行っているといえるでしょう。

 

 

Price

当初発売されたカップ型商品の店頭価格は120円前後でした。これは即席みそ汁の主力である袋入りの商品と比べるとかなり割高な設定です。しかしターゲットとした30歳前後の男性サラリーマンはお湯を注ぐだけという便利さを求める傾向もあり、割高な価格設定も受け入れられたと言えます。またコンビニを中心に展開したことで、発売直後の値崩れを防ぐこともできました。

逆に、コンビニで並んでいる他のカップ型インスタント商品と比べると低価格に抑えています。これにより、コンビニでは朝のおにぎりと一緒に、昼はお弁当と一緒に購入しやすくなっているという側面もあります。販売チャネルに適した価格設定が必要ということを再認識できる事例と言えます。

 

 

他社状況

キリンホールディングス

『疲れを感じている大人』をメインターゲットとし、グループを挙げて新商品を続々と発売しています。ノンアルコールビール、炭酸飲料、ウコン飲料、ヨーグルト、おかゆといった商品がすでに発売されており、これらの商品には全てグループ企業である協和発酵バイオが研究開発を行っていたオルニチンが活かされていて、消費者が無理なく手軽に日々の食生活の中に取り入れられるようにしていることが特徴です。キリンホールディングスでは、グループ横断健康プロジェクト『キリンプラス‐アイ』を立ち上げ、第一弾として話題のオルニチンを取り上げ、上記の商品を発売しました。商品単体の展開ではなく群で展開することで、店頭での売り場も確保しやすく、また他社のオルニチン商品と同時展開することで相乗効果を得ることが出来ています。プロモーションにも力を入れており、TVCMと同時に、新聞・雑誌といった紙面媒体や交通広告も展開し一気に知名度を高めました。また、キリンホールディングスではオルニチンの効果を、『肝臓に良い、お酒を飲む人に』といった点に限定せず、『回復系アミノ酸』と銘打って、多くの消費者を取り込んだことも一つの成功要因といえるでしょう。当初の予想を覆し、女性や20歳前後の若者も取り込むことに成功しています。商品それぞれを見ても工夫がなされています。キリンビバレッジが発売した『大人のキリンレモン』は、もともとは若年層がメインターゲットの商品ですが、そこに『大人の』というフレーズを加えることで大人向けの商品設計ということがストレートに伝わり、支持を得ているようです。もちろん、商品パッケージは大人が受け入れやすいようにナチュラルで健康的なイメージを打ち出したものにしたり、炭酸飲料の大人需要が広がっているといった市場背景を正確に把握する等、綿密な戦略が練られていたことも忘れてはなりません。

 

 

まとめ

オルニチンがヒットした要因を簡単にまとめると、健康志向の高まりという世の中のトレンドと、ターゲットに合った商品設定・流通チャネルを選んだことだと言えます。世の中にニーズをつかみそれに適した商品を適した場所で販売する。非常にシンプルな方程式であり一見容易に思えますが、実際に実行するのは難しいのかもしれません。

また、オルニチンに先駆けて、ウコン関連商品やホッピー等の商品がヒットしました。これらに共通するのは、『体に良くないのでお酒を止めましょう』ではなく、『お酒を楽しみながら体も大事に』というポジティブなメッセージではないでしょうか。長く続く不景気でネガティブな消費者が増えていますが、こういう時こそ、企業にはポジティブなメッセージを世の中に発信することが必要なのかもしれません。

 

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