ファーストムーバーアドバンテージ

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ファーストムーバーアドバンテージとは何かを具体例を挙げながら解説します。皆さんはそもそもファーストムーバーアドバンテージ(First Mover Advantage,FMA)という言葉を知っていますか。1971年に世界初のカップ麺として発売された「カップヌードル」は、未だに圧倒的な売れ行きを示しています。また、1987年に業界初のコンパクト洗剤として発売された「アタック」に関しても同様です。最初に動いた企業が有利になるという現象は新商品開発のケースに留まりません。米国の「Amazon.com」の場合は最初のネット書店という業態そのものにおいて先行者利益が享受されている例と言えるでしょう。

【1】なぜファーストムーバーは有利なのか?

当該のビジネスを真っ先に始めた企業が有利だというのは、なんとなくは理解できます。ここではそれを、より細かい要素に分解してみましょう。

1つにはブランドイメージがあります。カップ麺ならカップヌードル。小さな洗剤ならアタック。ネットで本を買うならアマゾン。我々の心には業界初の存在が強く刻みこまれます。商品やサービスを他社のものと冷静に比較した場合に実は大きな違いが無い場合でも、ファースト・ムーバーのものを買うことが無意識に習慣化されている場合も多いのです。また、後発企業が広告宣伝などを大量投入したとしても、これを逆転するのは至難の業である場合が大半です。

2つ目には限られた経営資源の確保があげられます。ビジネスを行ううえでは、原材料、流通ルート、当該スキルを持った人材などの経営資源が必要であり、これは無尽蔵には存在しません。ファーストムーバーがこれらに対して「独占契約」のような状態を実現できると、維持可能な競合優位性を築けるわけです。

3つ目はノウハウの進化スピードです。ビジネスには「やってみないとわからない事」が沢山あります。ファーストムーバーがPDCAサイクルを順調にまわすことが出来たなら、後から参入した競合はいつまでたってもその最新ノウハウに追いつけなくなります。競争の前提が大きく覆ることが少ないために蓄積されたノウハウが決め手となりやすい業界では、ファーストムーバーが優位になる場合が多いと言えそうです。

このようにファーストムーバーには多くの利点があります。しかし、日本の多くの企業は合議制をとっているため、意思決定に時間がかかりがちです。実はアイデアは先に見つけていたのに、意思決定に時間がかかって競合に先をこされた。そんな事例が多発しています。よりスピード感を高める必要性をFMAという概念は教えてくれているのかもしれません。

【2】ファーストムーバーなりの苦労もある

ファーストムーバーは世の中に今まで存在しない商品やサービスを提供するわけですから、大きな苦労もあります。まずは、高いコミュニケーション能力が求められます。「わけのわからない商品は扱いたくない」などと難色を示す取引先のキーパーソンに納得してもらえる対人影響力が必要な場合も多いでしょう。また末端消費者に対する訴求方法も工夫しないと、関心を向けてもらえなかったり、場合によっては拒否反応さえ示されるリスクがあります。

また「失敗への耐性」も必要となります。先行することは、ハイリスク・ハイリターンの戦略です。リスクすなわち失敗の可能性も高くなり、それに対する準備も必要です。具体的には撤退基準をあらかじめ明確化しておく、複数ビジネスのポートフォリオを組む、失敗したプロジェクトリーダーに再度チャンスを与える社風を醸成する、などがあげられます。

【3】ファーストムーバーが敗れ去る時

ファーストムーバーが2番手に敗れ去ることも意外に少なくありません。例えばネットショッピング業界で圧倒的地位を築き上げている楽天は実はセカンドムーバーであり、敗れ去ったファーストムーバーはキュリオシティというサイトです。

キュリオシティは1995年に三井物産のEC事業プロジェクトとして発足しました。三井物産という圧倒的な経営資源を有する会社が楽天の創業の2年も前からショッピングモールをてがけていたわけですが、ベンチャー企業の楽天に追い越され、2005年にはヤフーショッピングと統合する形でその存在を終えています。

優位なはずのファーストムーバーが敗れるのは、新しい競争の軸に対応出来ない場合です。先行者であるキュリオシティの考え方は「良いショッピングモールを構築すれば、出店者も消費者も勝手に集まってくれるはず」というものでした。一方で楽天は、出店者候補の企業にドブ板営業とさえ言えるような圧倒的な法人セールスを仕掛け、ある意味力ずくで魅力的なモールを実現させました。法人セールスという新しい軸が、創業期の楽天に2番手としての勝利をもたらしたわけです。

米国の検索サイトにおいて、先行者であるヤフーがグーグルに首位の座を譲り渡したのも印象的な事例です。この場合も、ロボット型検索エンジンという利便性を飛躍的に高める新しい競争の軸をグーグルが導入したことが大きいと言えるでしょう。

【4】意図的なセカンドムーバーの存在

業界によっては意図的なセカンドムーバーが存在する場合があります。高度成長期の日本の家電業界において、先行者のソニーをことごとく真似することで売上・利益をあげた松下電器(現パナソニック)が典型例と言えます。

マーケティングの4PでいうところのProduct(商品)の新規性で勝負するソニーに対し、松下電器はPlace(流通チャネル)で勝負しました。具体的には全国津々浦々に展開されていた「ナショナルのお店」です。このように強い流通力を持つ企業は、商品開発においては意図的にセカンド・ムーバー戦略をとる場合があります。清涼飲料市場における日本コカ・コーラも圧倒的な自販機網を背景に、他社で成功した商品カテゴリーを2番手として模倣する場合が多く見られます。

ファーストムーバーが有利な場合とセカンドムーバーが有利な場合を解説してきました。いずれにおいても「競争優位の軸は何なのか?」をとことん考え、それをスピーディーに構築・実践することが必須であることは共通した原理・原則と言えるでしょう。

【補足】ファーストムーバーアドバンテージを享受している他の例としては、1985年に初めて緑茶飲料を発売した伊藤園、1993年に文具の宅配ビジネスを開始したアスクル、1974年に1号店を出店したセブンイレブンなどが挙げられます。