ワールド・カフェ

ワールド・カフェという斬新な組織開発の手法に近年注目が集まっています。これは数十人から数百人の集団が4人1組になり、カフェでの会話のようなリラックスした意見交換を行い、何度かの「組替え」を行って会話を発展させてゆくというものです。

ワールド・カフェの具体的手順を説明する前に、なぜこの手法が注目されているのかの背景を解説しましょう。従来からあった会議、集会、研修といったコミュニケーション技法を「西洋医学」にたとえ、ワールド・カフェを「東洋医学」にたとえると理解がしやすいと思われます。

会議、集会、研修の実施方法は既に様々な工夫がなされており、極めて合理的に、意志決定、決定事項の通達、新しい知識の習得などが実現出来るようになってきました。しかしこれらの手法を駆使しても、成果が次々とあがってゆくとは限らないのが実際です。実は、上記のような「合理的手法」は、「今その組織が持っている力はそのままにし、短期的な援助を行う」のに適しています。栄養失調の患者に栄養剤を点滴することや、高熱で苦しむ患者に解熱剤を注射することに似ています。

これに加えて求められるのが東洋医学的発想です。点滴や注射で急場を乗り切った患者には、食事という形で栄養を摂取し、十分な睡眠をとり、ストレッチや適度な運動などを通じて自らの体力・生命力を高めることが求められます。そうで無い限りは薬漬けの入院生活が続くことでしょう。組織の話に戻ると「今その組織が持っている力を長期視点で高めておく」ことも必要なのです。ワールド・カフェはまさにそのための代表的手法と言えます。よってワールド・カフェを行ったからと言って、短期的な成果を期待してはいけません。ワールド・カフェは意志決定を行う場ではありません。ベクトル合わせ(合意形成)もしません。正式な議事録も残しません。むしろ長期的に組織全体の力がじわじわと高まることを目指すものなのです。

では、ワールド・カフェの具体的進め方について解説します。基本姿勢は「全員が自分の意見を言うこと」、「相手の意見を傾聴すること」です。そういうと少し堅い感じがしますが、実際はカフェでの会話のようにゆったりとした時間が流れて行きます。

具体的には4人が1つのテーブルに座って数十分間1つのテーマについて話します。机の上には、石、ぬいぐるみ、工芸品などのトーキング・オブジェクトを1つ置きます。まず1人がトーキング・オブジェクトを手にとり、その人が言いたいことを語ります。残りの3人は口を挟まずに黙って傾聴します。最初の人が話し終わったら、トーキング・オブジェクトを机に戻します。次の人がトーキング・オブジェクト手にとって、自分の話したいことを語ります。残りの3人は黙って傾聴します。このようにして会話が続けられます。

トーキング・オブジェクトを利用する狙いは2つあります。1つ目は、トーキング・オブジェクトを持っていない3名が聞き手に徹することを順守させる効果です。2つ目は、話し手が何かを手に持つことで安心し、リラックスして本音を語りやすくなる効果です。また、トーキング・オブジェクトを時計回りなどに順に回すことは避け、「話したくなった人が話始める」といった自然発生的な雰囲気を大事にしましょう。誰もトーキング・オブジェクトを手にとらない「沈黙」があっても全くかまいません。その雰囲気を皆で味わいましょう。

発言と傾聴を行う際、話した内容や聞いた内容をテーブルの上に敷いた模造紙の上に寄せ書きのようにして落書きします。必ずしも論理的な議事録である必要はありません。今の自分の気持ちを何となく絵にしてみたイラストなども大きな意味があります。また、カラフルなペンなど、楽しく書ける工夫をしておくと良いでしょう。

時間が来たら1名のホストだけを残して残りの3人は別のテーブルへとバラバラに散って行きます。ホストはテーブル・オーナーと言い換えることも出来、ワールド・カフェの開始から最後まで同じテーブルに座り続けます。第2セッションが始まる前にホストは新しく来た人たちに模造紙に書かれた寄せ書きの内容を説明します。そして同じテーマだったり、関連する別のテーマに関してまた数十分間リラックスした会話をします。寄せ書きを書き加えます。同じ要領でメンバーをシャッフルして第3セッションを行います(ホストは同じテーブルに留まります)。この手法だと数十人だろうと何百人だろうと、同時に議論をすることが可能なわけです。

最後に各テーブルに散ったメンバーが最初のテーブルに戻ってきます。そして自分たちが「蒔いた種」がどのように発展したのかを模造紙を見ながらホストから説明を受けます。

それで終わりです。何も決めません。何も合意しません。短期的成果は求めません。そうではなく、あちらこちらで起きた小さな「親睦」「発見」「創造」「危機感」「動機づけ」などが、長期的には組織全体の力を高めることに役立つのです。

ワールド・カフェは会社組織だけでなく、PTA、クラブ活動、県人会など、あらゆる組織に友好です。どの程度の頻度で行うのか、参加メンバーの選定はどうするのかなどには決まったルールがありませんので、様々なやり方を自分たちで工夫・応用してみると良いでしょう。

また、ワールド・カフェの実施を上司に提案する際は、その根本的意義を直球で訴えるのも良いですし、「ブレーン・ストーミングなどに代表される議論活性化の新技法」などと、技法面のユニークさを協調するのもひとつの手でしょう。